生命の手記



     静岡県 母


 ある日突然、靴が残される・・・。生のエネルギーを受け、日々のいのちを支え、いのちの全体重を支えてきた靴。体重を失った靴はもうすり減ることもなく、新しい靴に買い換えられることもない・・・。突然理不尽に奪われてしまった“いのち”の証として「生命のメッセージ展」で静かに語りかけてくる靴たち・・・。
 息子・直之の生命を奪った凶器はアルコールだった。直之の靴が合宿所の靴棚から見ていた飲み会は、水を用意せず、吐くための器は準備した先輩たちによる致死量のアルコールの「イッキ飲ませ」。私たちは1年もかかって、先輩たちの飲酒の強要と泥酔者の放置の様子をやっと聞き出すことができた。
 当時、首都圏7大学の学生で構成されていたサークルの新入生「歓迎合宿」に参加した1年生に、先輩たちはサークル独特の音頭で25度の焼酎の「イッキ飲み」を何杯も強要。ほとんどの先輩は乾杯のビールだけ。トイレでも「飲み足らんぞ」とボトルから飲ませる凄さだった。
 先輩たちの体質・体調なども無視した「イッキ飲ませ」は、強い意志や勇気だけで断れるものではなかった。1年生をつぶす通過儀礼は、まさに『伝統という名の圧力』『ノリという場の暴力』。先輩がつぶれたと見なした1年生は上階へ運ばれ、放置された。
 先輩たちには「イッキ飲みで死ぬのは聞いてたが、別世界の話」だった。
 「見張りをつけて飲ませれば大丈夫」「危なくなったらのどから血を出させても吐かせる」という飲み会は、アルコールハラスメント(アルコールにまつわる人権侵害)そのもの。失禁や体調不良、植物状態、転落事故など、アルコールによる苦しみは、なかなか社会に表現されない。
 「アルコールで人が死ぬってこと知らなかったよ」。暴力的に断ち切られたいのちの現実を知り、生命の重さを考えなおした中学生がいた。「生命の重み」を伝える大事な役割を担った犠牲者たちの新たな生命の証・・・。
 「生命のメッセージ展in和歌山」に集うメッセンジャーたちと対話して、思いを受取ってほしい・・・。感じたことを大切に生きてほしい・・・。
 ―つながれ つながれ いのち―


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