がん患者さんの看取り方 久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)


  大事な人が亡くなるのはとてもつらいことですが、しっかりと事前に情報を集め、
 心の準備をしておかないと、いたずらに死にゆく人を苦しめ、あとで己の行為を悔やむことになります。


  特にがんの患者さんが亡くなるときは、たいてい悪液質になっていますから、状況を理解しない家族は、
 無理に食事を摂らせようとしたり、点滴や注射や酸素マスクを求めたりして、患者さんを苦しめます。
 何かせずにはいられない気持ちはわかりますが、悪液質になった患者さんには、静かに見守ることがもっとも楽な方法です。
 しかし、前もってしっかりと心の準備をしておかないと、なかなかむずかしいでしょう。


  医療は死に対しては無力です。それどころか、よけいな医療は死にゆく患者さんを苦しめるばかりです。
 よけいな医療というのは、死を遠ざけようとする処置です。


  「まだ治療の余地があります」とか、「なんとか別の方法を試してみましょう」などと言う医者も、内心では
 何もしないほうがいいんだけれどと思っているというのが、ほんとうのところです。


  一方、死にゆくがん患者さんに必要な医療もあります。それは痛みをコントロールするために医療用麻薬の使用です。
 モルヒネが主ですが、ほかにも人工麻薬のフェンタニルやオキシコドンなどもあります。
 飲み薬や持続注射、座薬や貼り薬もありますから、患者さんの状態に応じて使用できます。


  麻薬というと、中毒や副作用を恐れる人もいますが、死にゆく人に中毒の心配をするのはナンセンスですし、
 使用量をまちがわなければ副作用で命を縮めることはありません。


  麻薬は怖いなどという思い込みで、がんの末期で痛みに苦しんでいる患者さんを我慢させるほど、
 愚かで残酷なことはありません。


  私ががんになって最期を迎えることになれば、早々に医療用麻薬を開始してもらって、麻薬の安楽なもうろう状態で、
 この世とお別れしたいと思います。

 


 

悪液質
 
悪性腫瘍(がん、癌)や白血病でよく発生する。悪性腫瘍の末期における、炭水化物タンパク質代謝変化などを原因とする悪液質を癌悪液質と呼ぶ。
下垂体性悪液質は
下垂体の広範な破壊を原因とする悪液質性疾患であり、体重減少、低タンパク血症脱毛粘液水腫、臓器の萎縮などが認められる。
  悪液質の顕著な臨床的特徴は、成人の場合は体重減少(体液貯留を補正)、小児の場合は成長障害(内分泌疾患を除く)である
 癌悪液質は非小細胞性肺癌膵臓癌消化器の癌(胃癌大腸癌)のほか、転移が進んだ悪性腫瘍で起きやすい。筋肉皮下脂肪が減り、
「癌にかかると痩せる」という状態を引き起こす。
 
抗がん剤が効きにくくなるほか、床ずれが起きやすくなったり、体力が落ちて歩行や入浴、排泄などを自力でしにくくなったりして生活の質(QOL)の低下を招く
 視床下部がやられる