生命の手記



     千葉県 父母

 「奏子(かなこ)のパネルは95センチ、周子(ちかこ)のパネルは83センチです。二人が生前履いていたかわいら しい靴もぜひご覧になってください。生命のメッセージ展の会場でお待ち申し上 げております。
  内閣総理大臣・小泉純一郎様
 東名高速道路で酒酔い運転のトラックに二人の娘を奪われた母・井上郁美より」
 昨年二月、永田町の衆議院第一議員会館で「生命のメッセージ展in国会」が開かれることになりました。それに先立って、小泉総理にも案内状を出そうと、メッセージ展に参加している家族がそれぞれの想いをしたためたはがきをとりまとめてお届けすることになりました。冒頭のメッセージは、娘たちの生前の写真を貼ったはがきの片隅に書き添えたものです。
  来る日も来る日も、全国の参加家族から総理宛てのはがきが私たちのもとに届きました。個性豊かなはがきばかりでした。
 突然、最愛の家族を奪われてしまった悲哀を切々と語ったもの。事件の概要を淡々と書き記したもの。会場へお運びいただけるよう、熱心なくどき文句をつらねているもの。小学生の字で、「ぼくのお父さんは、よこすかの海でつりをするのがすきでした。お父さんのパネルを見にきてください。」と書かれたものもありました。
 とりわけ私たちの目を引いたのは、和歌山市の丸谷さんが送ってこられた一葉でした。「総理へのお手紙は、私たちに代わって息子に語らせようと思いました。」というメモと共に送られてきたはがきには、一言も言葉は記されていなく、ただ、亡くなられたご子息・康政さんの笑顔の写真のみがはがき全面に貼られていました。
 折しもバレンタイン・デーが迫っていました。寄せられた40枚余りのはがきを真っ赤なハート型の箱に入れ、花束を添えて内閣府にうやうやしくお届けしました。
 参加者の熱い想いが届いたのでしょうか。お忙しい中、小泉総理はお昼のセレモニーに出席くださることになりました。
 当日、総理は静かに等身大の人型と靴をご覧になった後、「かつての日本は、『世界一安全な国ニッポン』として、よその国からうらやましがられるほどだった。交通事故や犯罪で毎年一万人近くもの尊い命が奪われている今、もう一度、『世界一安全な国ニッポン』を取り戻すために、私たち国会議員も、そして国民の皆さん一人ひとりもやらなければならないことがある、と痛感しました。」との感想を述べられていました。
 犯罪や事故は決して「数字」では語り尽くせません。等身大の人型が発信している大切なメッセージを、和歌山会場にお越しくださる方もきっとそれぞれの感性で聞き取って下さると信じています。
 そして、会場に入ったとたんに目に飛び込んでくるであろう、丸谷康政くんのとびっきりの笑顔、彼の天国での仲間たちをぜひ多くの方にご覧になっていただければと願っています。



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